ジャコメッティの最後のことば
2010-02-28


<ジャコメッティのブロンズ像「歩く男」、94億円で落札>のニュースがネットで流れていた。
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 気の遠くなるような金額で驚くが、ジャコメッティが生きていたらどんな気持ちだろうか、などという問いはばかげている。そんなことにまったく彼は関心を示さないことは明らかだからだ。

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 ジャコメッティの記録映画を見ると、文字通り絶え間なく彼がデッサンをしていたという証言が繰り返し述べられている。死ぬ間際も、頭のなかでデッサンをしていたのだそうだ。彼は絵を描くこと、彫刻をつくることより他に目的をもたない存在と化していたらしい。

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 ジャコメッテイの文集として死後発表されたことばのうち、最後のテキストは、次の詩のごとき断片である。

tout cela n’est pas grand-chose,
toute la peinture,sculpture,dessin,
ecriture ou plutot litterature.
Tout cela a sa place
et pas plus.
Les essais, c’est tout.
oh merveille !

それらはすべてたいしたものではない
絵画も、彫刻も、デッサンも
文字というか文学も。
みなそれぞれしかるべき場をもち、
それ以上のものではないのだ。
試みること、ただそれだけ。
なんと驚くべきことか!


 なんというか、バルザックの『知られざる傑作』を地でいくような独白だが、芸術への驚嘆とも絶望ともとれるこのことば、とくに最後の2行は、彼の頭のなかにあった描くことへの強迫観念のような執念が伝わってくる。


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 それにしても、ジャコメッティの彫刻が展覧会でスマートに陳列されているときに比べて、パリの彼のアトリエのなかに置かれたとき、どうしてこんなに違って見えるのだろう。展覧会を開くことを彼はずっと嫌っていたそうだが、暗いアトリエの煤けた壁のなかで、彼の彫刻はなんとリアルで威厳ある存在感に満ちていることか。


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[日記]

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